大阪地方裁判所 平成9年(ワ)4555号 判決 1998年12月17日
原告
大阪国際観光バス株式会社
被告
伊澤理
主文
一 被告は、原告に対し、金一〇二万四四三五円及びこれに対する平成七年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金二五八万八八九二円及びこれに対する平成七年一二月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、訴外生駒幸平が運転していた普通乗合自動車(原告所有)と被告運転の普通乗用自動車とが衝突した事故につき、原告が、被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)
左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
記
日時 平成七年一二月三〇日午前七時二〇分頃
場所 長野県飯山市大字瑞穂豊一〇四五―一先路上(以下「本件事故現場」という。)
事故車両一 普通乗用自動車(足立五二せ六六六一)(以下「被告車両」という。)
右運転者 被告
事故車両二 普通乗合自動車(大阪二二あ七三〇九)(以下「原告車両」という。)
右運転者 当時原告従業員の訴外生駒幸平(以下「生駒」という。)
右所有者 原告
態様 本件事故当時、本件事故現場付近の路面は凍結し、雪が薄く積もっていた。原告車両と被告車両とが衝突した。
二 争点
1 本件事故の態様(被告の過失、生駒の過失)
(原告の主張)
本件事故の態様は、別紙図面1記載のとおりである(同図面<1>ないし<5>が原告車両の走行経路であり、同図面ないし
(被告の主張)
本件事故は、本件交差点を右折途中の原告車両と直進中の被告車両とが衝突した出合頭衝突の事故であり、その態様は、別紙図面2記載のとおりである(同図面<1>ないし<6>が被告車両の走行経路であり、同図面<ア>ないし<オ>が原告車両の走行経路である。)。
原告車両の左前部の損傷は、被告車両が右側面に衝突した後に、その反動で原告車両の左前部が雪の壁などの障害物に接触したために生じたものである。なお、原告は、原告車両の左前部の損傷は被告車両と衝突する前に生じたものであるというが、仮にそうであれば、左前部の損傷は本件事故と無関係であるにもかかわらず、原告は、これを含めてその賠償を請求しているのであって、原告の主張自体矛盾するものである。
本件事故の態様に関する生駒の供述は変遷を重ねており、到底信用することができないものである。
原告は、本件事故後に実施された現場立会において、本件事故の態様が原告主張のとおりであると確認されたと主張するが、このような事実はない。
2 損害
(原告の主張)
(一) 修理費 六三万九二〇〇円
原告車両は、本件事故により、右トランクリッド、右後部トランクフロアー等に損傷を受け、六三万九二〇〇円の修理費を要した。なお、原告は、本訴提起当初、修理費を六五万九二〇〇円として主張していたものであるが、このうちフロントバンパー破損修理費二万円は本件事故と関係のないことが後日判明したので、これを減縮し、六三万九二〇〇円を本件事故と相当因果関係にある修理費として主張するものである。
(二) 休車損害 一三五万〇四九二円
一日四万〇九二四円の割合による平成八年一月一日から同年二月二日までの三三日分。なお、被告は、修理期間中遊休車または予備車がなかったことの主張立証を要すると主張するが、原告車両は一般貸切旅客自動車であり、予備車を持てないので、遊休車または予備車は存在しない。
(三) 現場検証のための現場までのバス代金及び通行料 三六万九二〇〇円
本件事故の態様を確認するため、平成八年四月一七日、原告車両を本件事故現場に持ち込み、事故の様子を再現した際の費用である。被告加入の任意保険会社である富士火災海上保険株式会社担当者根本の要請で現地に集合することになり、原告支店長大崎が了解したものである。現地集合に要する標記費用は被告が負担するという約束であった。
(四) 弁護士費用 二三万円
(被告の主張)
(一) 修理費について
争う。
(二) 休車損害について
原告には遊休車が存在する。そうである以上、休車損害は生じない。
また、原告車両は貸切バスであり、予約制であったのであるから、原告車両が修理期間中使用できなかったことにより、原告が損害を被ったことを立証するためには、その予約がキャンセルされたことまで立証する必要があるが、この点の立証は尽くされていない。
(三) 現場検証のための現場までのバス代金及び通行料について
このような費用が損害賠償の範囲に含まれないことは自明のことである。
また、原告は、現地集合の費用は被告が負担するという約束があったと主張するが、このような事実もない。
(四) 弁護士費用について
争う。
第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)
一 争点1について(本件事故の態様)
1 前記争いのない事実、証拠(甲五ないし七、検甲一、二、乙一ないし三、証人生駒、被告本人(但し、後記認定に反する部分は除く。))及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
本件事故現場は、長野県飯山市大字瑞穂豊一〇四五―一先路上であり、その付近の概況は別紙図面3記載のとおりである(右記載内容はあくまでも概況であり、実況見分調書添付の現場見取図に類する正確性を有するものではない。)。本件事故現場付近には、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)に東西方向の道路(以下「東西道路」という。)が突き当たるT字型交差点(前記「本件交差点」である。)がある。南北道路を本件交差点から約一四〇メートル北上すると、東方向にカーブしている。本件事故当時は、若干霞がかかった状態ではあったが、本件交差点付近における南北道路及び東西道路間の相互の見通しは良好であった。本件事故現場付近の路面は凍結し、雪が薄く積もっており、原告車両・被告車両以外の車両は走行していなかった。
生駒は、平成七年一二月三〇日午前七時二〇分頃、原告車両を運転し、東西道路を東から西に向かって走行していたが、本件交差点手前(別紙図面3<1>地点付近)で一時停止して右方を確認したが、走行車両を確認できなかった。同時刻頃、被告は、被告車両を運転し、南北道路の前記カーブを曲がってちょうど南北道路の直線部分に入って南に向けて進行したあたりで、停止中の原告車両に気づいたが、自車を先に通過させてくれるであろうと考え、そのまま時速約五〇キロメートルで走行した。ところが、生駒は右方を確認後、ゆっくりと右折を始めた。右折を始めた原告車両を見た被告は、右にハンドルを切ってこれを回避しようとしたが、凍結路のためタイヤのグリップが十分に効かず、スリップし始めた。他方、生駒は、原告車両が同図面<3>地点付近に達した時点で、右前方に被告車両が南北道路を北から南に向かって時速約五〇キロメートルでスリップ状態で走行しているのを認めたが、普通にすれ違うことができるのではないかと考え、右折を続け、同図面<4>地点で停止した直後、被告車両(同図面地点)と衝突した。被告車両は同図面地点に停車した。原告車両が同図面<1>地点を発進してから同図面<4>地点に達するまでに九秒程度を要した。
原告車両は、スノータイヤを履いてダブルチェーンを装着していたが、被告車両はスタッドレスタイヤを履いていたもののタイヤチェーンを装着していなかった。
以上のとおり、認められる。
原告は、衝突地点は右認定よりもさらに北方に進行して右折を完了した地点であると主張するが、<1>生駒が事故当初の段階で事故状況を説明して大崎がこれを記載した図面(乙三)には前記認定事実に沿う事故態様が記載されていること、<2>図面を記載する趣旨は後日相手方と交渉する資料ないし証拠として残す趣旨であると考えられるから、大崎が作成した図面を生駒が何ら確認していないとは考えがたいこと、<3>交通事故証明書(甲五)には事故類型として出合い頭衝突と記載されていること、<4>原告側作成の図面は数通あるところ、作成時期が後になるにつれ、衝突場所が北方へ移動した形になっているが、その変遷についての合理的な説明はなされていないことに照らすと、原告の右主張を採用することはできない。
他方、被告は、原告車両が別紙図面2<オ>地点にいるときに衝突したのであるし、被告車両の軌跡は同図面記載のとおりであると主張する。しかしながら、被告車両が本件事故後自走不可能となり、経済的全損となったこと(乙六、弁論の全趣旨)に照らすと、衝突時点においても被告車両の速度は高速度を保っていたと推認され、これと路面が凍結状態であったこととを考え併せると、被告車両はグリップ力が低下した状態のまま高速度で衝突したと推認される。そうだとすると、被告車両の描いた軌跡が同図面記載のような曲線であったとは考えがたく、被告の右主張を採用することもできない。
他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右認定事実によれば、本件事故は、被告が、南北道路は凍結状態であったのであるから、東西道路からの右折車等に対応できるような装備と速度で進行すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠ったために十分な制御ができない状態に陥って発生したものであると認められる。しかしながら、他方において、被告車両は直進車であり、右折車である原告車両よりも南北道路を直進する車両が優先する関係にあること、衝突時点で原告車両は南北道路の北行車線上に入っていたとはいっても未だ右折途中の姿勢であり、余裕をもって被告車両とすれ違うことのできる状況ではなかったこと、原告車両は車体の長い貸切バスであるから、直進車からすると進路前方の全てを塞がれた感じを受けかねないこと、凍結路においては、通常の路面状態の時と同様の容易さで適切な衝突回避措置を採りうるわけではないことからすると、生駒としても、右折進入する際には、右折開始前において右方を確認すれば十分というわけではなく、右折中も右方の確認を継続すべきであったのであり、仮にこれを十分に行っていれば、右折進入を開始したかしないかのうちに被告車両を発見し、自車を停止するなどの回避措置を採ることができたと認められる。
したがって、本件事故態様に関する一切の事情を考慮し、被告と生駒との過失割合は、被告七、生駒三の関係にあるとみるのが相当である。
二 争点2について(損害)
1 損害額(過失相殺前)
(一) 修理費 六三万九二〇〇円
原告は、本件事故によって、修理費六三万九二〇〇円相当の損害を被ったものと認められる(甲一)。
(二) 休車損害 六九万五七〇八円
原告車両の休車期間は、少なくとも本件事故後一七日間を要したと認められる(甲一、弁論の全趣旨)。右期間以上の休車が必要であったと認めるに足りる証拠はない。そして、原告車両が休車することによる一日あたりの損失額は、<1>大阪バス協会の平成六年度型別貸切バス輸送実績によると、大型貸切バス一両あたりの運行収入が一か月一九七万七五一七円であること、<2>原告車両は初年度登録が平成七年三月二九日で原告の稼ぎ頭的車両であったこと(甲九5、証人大崎)、<3>原告車両の経費が一か月七四万九七八七円であることにかんがみると、原告車両の休車により一日あたり四万〇九二四円の損失が出たと推認される。したがって、原告の休車損害は、その一七日分である六九万五七〇八円となる。
この点、被告は、原告には遊休車が存在するから、休車損害は生じないと主張する。しかしながら、事故車両の所有者が遊休車を有している場合であっても、当該事故車両とほぼ同格の遊休車が多数存し、これを代替することが容易にできる等の特段の事情がある場合を除き、事故車両の所有者側に遊休車を利用してやりくりすべき義務を負わせるのは相当ではない。本件においては、原告において原告車両と同格の車両は他に一台しか所有しておらず、これらの実働率は約七六パーセントであること(甲九1、証人大崎利丸)に照らすと、右特段の事情を認めることはできず、被告の右主張を採用することはできない。
(三) 現場検証のための現場までのバス代金及び通行料 認められない。
原告は、被告加入の任意保険会社である富士火災海上保険株式会社担当者根本と原告支店長大崎との間で、右費用を被告が負担する合意があったと主張するが、右合意があったことを認めるに足りる証拠はない。
また、右費用が本件事故と相当因果関係にある損害と認めるに足りる証拠もない。
したがって、いずれの観点からも原告の右主張を採用することはできない。
2 損害額(過失相殺後) 九三万四四三五円
以上掲げた原告の損害額は、一三三万四九〇八円であるところ、前記の次第でその三割を控除すると、九三万四四三五円(一円未満切捨て)となる。
3 弁護士費用 九万円
本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、被告に負担させるべき原告の弁護士費用としては、九万円を相当と認める。
4 まとめ
したがって、原告の損害賠償請求権の元本金額は一〇二万四四三五円となる。
三 結論
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口浩司)
別紙図面1
別紙図面2、3 〔略〕